ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #19 「影を捨てた男」

こんばんは、松田悠士郎です。

 

今回のテキストは、「探偵物語」第19話「影を捨てた男」です。脚本は柏原寛司さん、監督は、助監督から昇格して本作が初監督となる小池要之助さんです。「松田優作DVDマガジンVol.09」収録の映像を視聴し、「甦れ! 探偵物語」を副読本としています。

 

友人の風俗嬢の京子が新たに勤める店で蒸し風呂に入っていた工藤は、手入れで入って来た服部&松本コンビから、岡部俊夫という私立探偵が水死体で発見されたと聞かされる。

 

その後、工藤は井上京子という女性と会い、依頼内容を聞く。京子は、3年前に失踪した恋人の坂本明を探して欲しいと頼むが、その坂本、3年前に香港で事故死していると言う。呆れた工藤が帰ろうとするのを引き止めた京子が、横浜で坂本を見かけたと強硬に主張する為、工藤は仕方なく調査に乗り出した。

京子が、女と共に歩く坂本を見たという港の見える丘公園から足取りを追う工藤は、次に坂本が生前勤めていた横浜建設という会社に行って同僚から話を聞く。すると、坂本は3年前に海外の建設資材にまつわる汚職に巻き込まれたと聞かされる。その坂本の死体だが、車ごと爆発炎上した為に身許も判らない状態だったらしい。

その夜、事務所で2代目イレズミ者襲名披露パーティーが執り行われていた。その様子を観察するふたりの男が、宴を終えた事務所に侵入し、ベッドで布団を被って眠る男をメッタ打ちにして逃走する。隣のナンシー&かほりの部屋で寝ていた工藤が目を覚ますと、ボコボコにされたイレズミ者が入って来た。侵入者が襲ったのは、工藤ではなくイレズミ者だった。

翌日、工藤は京子の勤め先に行って、前夜の事を話した上で京子を問い詰める。すると、京子は、工藤の前に岡部に坂本の調査を依頼したと白状する。そのふたりの様子を、事務所に侵入したふたりが車から監視していた。

工藤は岡部の助手だった大平という男を探し出して、坂本の友人の赤い車の女の事と、岡部が調べていた大野不動産の大野社長の事を聞き出す。

工藤は大野不動産へ赴くが、受付で門前払いされる。仕切り直そうとした時、赤い車が駐車場に入るのを目撃する。中から出て来た女は、大野不動産の通用口から中に入って行った。例のふたりの監視がある事も知らず、工藤は駐車場で張り込み、大野不動産から出て来て車で出た女をベスパで追う。しかし、途中で二人組に阻止されて逆に逃げる羽目に陥る。

工藤を追う男は二手に分かれて探し始めた。その内のひとり、渡辺さんと呼ばれていた男に、工藤は変な催眠術をかけて訊問する。渡辺は岡部殺しを認め、坂本の生存については曖昧な返答をした。赤い車の女を知っていると答えた渡辺を利用して、工藤は女が住むマンションに行った。

女=吉田礼子の部屋に侵入した工藤は、室内に白いスーツ姿の男を見かける。近づこうとした時、後ろから殴られて昏倒する。

目を覚ました工藤を大野が脅し、もう一度昏倒させて連れ出した。礼子は、大野がリュウと呼ぶ男の世話をしろと大野に命じられて、リュウと共に寝室に入るが、リュウは礼子に手を出さない。

夜の路上に2台の車が停まった。複数の男に車から引きずり出された工藤は、別の車の運転席に縛り付けられ、自由が効かない状態で坂を下らされる。猛スピードで坂道を下り、障害物に衝突して爆発炎上する車を見届けて、男達は残った車で去る。だが工藤はどうやってか、車から脱出していた。

工藤は元町で礼子を捕まえて、リュウの事を聞き出す。リュウは香港から麻薬密輸目的で日本に来たらしく、その取引の相手が大野である。

その頃、リュウと大野達は港で会い、取引場所は大黒埠頭と告げて去る。

工藤は礼子を利用して大野達が宿泊するホテルの部屋から金を奪い、逃走する。大野達は慌てて後を追うが、工藤の策略で神奈川県警本部の駐車場に誘い込まれ、礼子もろとも捕まってしまう。

工藤は大黒埠頭へ向かい、大野達を待つリュウに疑問をぶつける。

「あなた、坂本明さんでしょ?」

その上で、坂本が中国籍を得る為にシンジケートに入り、金を見返りに会社の指示で偽装自殺した、と推理を披露する。だがリュウは、自分を香港から来たリュウ・オンエンだと言って譲らない。そこへ、どうやってか県警本部から脱出して大野が現れて、拳銃を出してリュウを脅す。その際に京子こ事を仄めかした為にリュウが逆上、大野に襲いかかる。だが大野に撃たれて倒れてしまう。工藤は大野の拳銃を奪って殴り倒し、リュウを介抱する。今際の際にも、リュウは自分がリュウ・オンエンだと言い張って息を引き取る。工藤はリュウの言葉を認め、京子に人違いだったと報告する。

 

以上が、今回のストーリーです。

基本はシリアス寄りな話ですが、途中にイレズミ者襲名披露パーティーが挟まれたり、工藤が渡辺(演じる片桐竜次さん、3度目の出演)に変な催眠術をかけてみたりと、笑いの要素もふんだんに盛り込まれていて、一気に楽しく観られます。

今回の工藤の優しさは、リュウ・オンエンこと坂本明に向けられます。

工藤の追及に対しても自分が坂本である事を否定し、死ぬ間際にも自分はリュウだと言い張った坂本に、工藤はその言葉を認めてそれ以上否定せず、恋人の京子にも人違いだと報告します。男が命を捨てても守りたかった秘密を、共に隠し通す決意をした工藤の懐深い優しさが感じられます。

余談ですが、この話にはチョイ役で柄本明さんが出演しています。柄本さんは第16話「裏切りの遊戯」にもチョイ役で出ています。では、今日はこれにて失敬。