ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #10 「夜の仮面」

こんばんは、松田悠士郎です。

今日のテキストは、「探偵物語」第10話「夜の仮面」です。脚本は白坂依志夫さん、監督は長谷部安春さんです。今回も「松田優作DVDマガジンVol.05」収録の映像を視聴し、「甦れ! 探偵物語」を副読本としています。

 

工藤が中華料理店で食事をしていると、チー子が現れてキミちゃんと呼ぶ男の濡れ衣を晴らしてくれと頼んで来る。その事件とは、コールガールが絞殺された殺人事件で、そのキミちゃんはたまたま被害者の部屋に空き巣狙いで侵入して死体と鉢合わせしたらしい。渋々受けた工藤は、チー子の話を手掛かりに麻薬の売人の五郎を訪ねる。工藤を刑事と間違えて逃走する五郎を何とか捕まえて話を聞くと、五郎が開いた麻薬パーティーに被害者と一緒に中年の男が訪れていたと言う。その男は初顔で、被害者に無理に連れて来られている様に見え、いつの間にか居なくなっていたらしい。

東署に赴いた工藤は、コールガール殺しの情報を得ると同時に、事件に近い日に飛び降り自殺した石堂と言う商社の経理部長の事を知る。

石堂の家に行った工藤は、中で妻の杏子と、精神科医の榊原に話を聞く。榊原によると当時の石堂は疲れ切っていたそうで、自殺当日は前夜に早く帰宅して榊原と酒を飲んでいたと証言した。疑問を抱きつつ石堂邸を出た工藤は、ガレージにカバーをかけて停めてある車に不審を抱く。カバーをめくるとウィンカーは割れ、ルーフミラーは折れていた。車内を調べると、「オリエントゴルフサービス」の会員証が見つかった。

「オリエントゴルフサービス」の募集広告を見つけた工藤は、ナンシーを送り込む。社長の野川が面接にかこつけてナンシーを襲おうとした所を撮影した工藤は、その写真とナンシーに隠し録りさせたテープを盾に、「オリエントゴルフサービス」が裏で売春斡旋をしている事を認めさせ、顧客名簿を閲覧した上で石堂にこの会社を紹介した人物について尋ねるが、野川は知らないと言い張る。

その夜、工藤は再び石堂邸を訪れて杏子に掴んだ事実を突きつけるが、杏子は工藤を追い返す。

翌朝、事務所に野川から電話が来て、工藤は呼び出しに応じて待ち合わせ場所の建設現場へ向かった。だがそこで野川は射殺され、工藤も狙われる。辛うじて銃弾から逃れた工藤だったが、射殺犯には逃げられてしまう。

工藤はクレー射撃をしている榊原を訪ね、病院の経営状態が悪い事を話した上で、榊原の治療法を聞き出す。

事務所に戻った工藤は、女性から電話があったとかほりに告げられる。相手が杏子だと知った工藤は石堂邸に行き、そこで杏子が嘘を吐いていたと告げられる。それは榊原の勧めだと言い、コールガールの事は本当に知らなかったと言った。榊原を疑う工藤は、榊原が石堂の治療の際に録音したテープを手に入れる為に杏子に協力を要請する。

杏子が榊原を家に引き留めている間に榊原宅に侵入した工藤は、遂に石堂の治療テープを発見するが、帰宅した榊原に散弾銃をつきつけられる。しかし逆転して榊原から銃を奪った工藤は、観念した榊原の言う通りにテープを再生する。その中では、極東商事の三井という男からの融資の要求をキッカケに、石堂が追加融資の泥沼にはまっていく状況と、同時に紹介されたコールガールに溺れていく様子が赤裸々に語られていた。最後には、麻薬の影響で石堂がコールガールを殺してしまう顛末まで話していた。工藤は榊原に疑った事を謝罪し、冤罪を晴らす為にテープが必要だと告げる。そこへ、先だって野川を射殺した二人の男が侵入して来た。工藤は二人組を退治する。

 

以上が、今回のストーリーです。

全体的に暗いトーンが支配する、重めの話です。笑えるシーンはありますが、かなり少なめです。

その中で工藤が見せる優しさは、依頼人のチー子に対してです。冒頭ではチー子が誤認逮捕された男に好意を寄せている事を見抜いた上で依頼を引き受け、中盤でチー子が調査費用を渡そうとするのを拒否して励まします。

一方で、夫の事に関して真実を隠そうとする妻の杏子に対して、工藤は静かな怒りをぶつけます。この様な厳しい姿勢を見せるのは久しぶりです。それだけ、この事件に理不尽なものを感じていたのでしょう。

 

二転三転するスリリングな展開と、やり切れない真実に対しての工藤の義憤が物語を引き締める、アダルトな仕上がりの話でした。これもまた、一種のハートボイルドではないでしょうか。では、今日はこれにて失敬。