ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #11 「鎖の街」

こんばんは、松田悠士郎です。

 

今回のテキストは、「探偵物語」第11話「鎖の街」です。「松田優作DVDマガジンVol.05」収録の映像を視聴し、「甦れ! 探偵物語」を副読本としています。更に今回は参考文献として、「松田優作と七人の作家たち」(李建志著)を参照しました。脚本は丸山昇一さん、監督は西村潔さんです。

 

事務所に、木下一(通称イッチ)が現れ、工藤に借金の取り立ての協力を頼む。一度は断る工藤だが、金に困っていたので渋々引き受ける。取り立て相手の大男に苦戦しながらも何とか取り立てに成功し、取り立てを依頼した妙子の居る店「グレース」で祝杯を上げる。そこには妙子と共にしずほと言うホステスも同席している。そこへ多美と名乗るホステスが割り込み、イッチに取り立てを依頼する。

工藤と別れたイッチは、多美の部屋で取り立てについての打ち合わせを始める。

夜中の2時、事務所の扉を激しくノックされて安眠を妨害された工藤が出て行くと、落ち込んだ顔のイッチが入って来た。何でも、一度は多美の部屋を出たものの、忘れ物に気づいて戻ってみると浴室で多美が死んでいたらしい。自分の指紋を拭き取った上で警察に通報したと言うイッチを、工藤は東署に連れて行く。だが服部&松本コンビは完全にイッチを犯人扱いする。イッチは当然殺害を否認、留置場に連行される際に出会った工藤に悪態を吐く。その直後、事情聴取に来ていた妙子としずほに会った工藤は、喫茶店でふたりに話を聞く。ふたりによれば、多美が死んでも得する人間は居ないらしい。

ふたりから、多美が以前は銀座の「アザミ」と言う店に「ユウコ」と言う源氏名で勤務していた事を聞き出した工藤は、イッチに工藤を紹介したダンディにユウコの情報を訊く。

ユウコは男関係は激しかった様だが、「アザミ」のバーテンのシロウとは深い仲だったらしい。

「アザミ」に入ったシノと言う新人ホステスが可愛いと評判で、ユウコはシノの客を奪おうとしていた。そのシノの客に金持ちのボンボンが居て、シノと結婚寸前まで行ったがユウコの所為で破談になり、シノは事件を起こして服役した。

工藤はシロウを見つけて話を聞いた。シノはユウコの差し金で薬漬けにされ、その薬を扱う元締めである「現代金融」の一条に目をつけられてコールガールにされたらしい。

一方、イッチは泳がされ、服部&松本コンビが尾行するが、イッチは電車で尾行を撒いて逃走する。

工藤は「現代金融」へ向かうが、そこから出て来た女性を追い、シノについて尋ねる。すると女性は人気の無い所に工藤を連れて行き、入れ替わりに強面の男3人が現れて工藤を「現代金融」へ連行する。そこで何故かマイク越しに一条と会話し、シノが既に死亡している事を知る。シノの借用証を確認すると、借金の額は300万円と記載されていた。

シノが住んでいたアパートに行った工藤が管理人に話を聞くと、シノは室内で自殺し、後日妹と名乗る女性がシノの遺骨を取りに来たらしい。部屋に入って中を物色しつつ、「現代金融」の尾行を追い払った工藤が物音に気づいて身を隠すと、イッチが上がり込んで来た。イッチを取り押さえた工藤が問い詰めると、イッチはシノと3年前から知り合いで、好意を寄せていたと言う。イッチが半年前に再会したシノは、かつてのシノとは様変わりして、一条やユウコに関しての恨み言を言う様になっていたそうで、イッチはシノが自棄になってユウコを殺したのではないかと思い、自分が身代わりになっても良いとさえ思う様になっていた。シノの借金は、実際には借りておらず、無理矢理借用証を書かせて薬で縛り付けるという手口だった。

シノに妹が居る事をイッチから聞いた工藤が、改めて管理人に妹の事を訊くと、管理人が妹に旅館を紹介したと言う。その旅館を訪ねた工藤とイッチは、妹がしずほだと確信する。しずほは何処かに電話をかけてから外出したらしい。

そのしずほは、「現代金融」で一条に融資を依頼していた。しかも担保は自分の身体だと自ら告げる。だが、社員がしずほの正体を見破り、後で一条に知らせてしまう。一条はしずほを連れて「いつもの所」へ車で向かう。

その後に「現代金融」に乗り込んだ工藤とイッチは、社員を締め上げて一条としずほの行き先を聞き出す。その行き先=ホテルへ向かう途中、イッチは工藤のベスパを奪ってひとりでホテルへ行く。

ホテルでは、しずほが一条を殺そうとして失敗、逆に一条に襲われるがそこへイッチが助けに入る。しかし、イッチはしずほにわざと刺される。逃走を図った一条を、ニセ警官の芝居をして入って来た工藤が殴り倒す。その後、110番通報でやって来た服部&松本コンビに後始末を任せ、服部に頼んで出血が酷いイッチに輸血を施す。

 

以上が今回のストーリーです。

今回、工藤はシノを一途に思い、自己犠牲する厭わないイッチを「気に入っちゃったよ」と言って助けます。最初は煙たがっていましたが、自分が犯罪者になっても構わないと半ば自棄になるイッチを諭し、服部に輸血を頼んでまで助けようとする姿に、工藤の優しさを感じます。

その一方で、工藤の義憤は意外な所で見られます。

茶店で妙子としずほに話を聞いている時に、取り立て屋をやっているイッチをふたりがなじったのを咎めて、「同じ血が流れてるんだから、表向きで判断しちゃダメ」と抑えた口調ながら厳しく窘めます。「商売に貴賤無し」という工藤の信条がよく現れているシーンです。

 

今回は、工藤の優しさや義憤が垣間見られる「ハートボイルド」に相応しい作品だと言えるのではないでしょうか。では今日はこれにて失敬。