ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #12 「誘拐」

こんばんは、松田悠士郎です。

 

今回のテキストは、「探偵物語」第12話「誘拐」です。脚本は和久田正明さん、監督は加藤彰さんです。「松田優作DVDマガジンVol.06」収録の映像を視聴し、「甦れ! 探偵物語」を副読本としています。

 

高級住宅街にある依頼人宅を訪れた工藤は、主人の高宮から家出した娘を探し出して、翌日の見合いまでに連れ戻してくれと頼まれる。難色を示す工藤だったが、秘書の関根から20万円渡されて引き受ける。その関根から娘の行きそうな場所のメモを貰った工藤は早速聞き込みを開始、その過程で得た情報を元にディスコを訪れ、娘を見つける。別の女性とひと悶着ありつつ、工藤は取り敢えず娘を事務所に連れて行く。

片付けられていない事務所内の様子に苛立つ工藤を、娘は散々翻弄した挙げ句に工藤のベッドで眠ってしまう。仕方なく、工藤がデスクのアームチェアで寝ていると、翌朝娘が食事を用意していた。その席で娘は家に帰ると工藤に告げる。

 

工藤がベスパで娘を送る途中、娘が腹痛を訴えて、ホテルに残した荷物を取って来てくれと工藤に頼む。請け負った工藤は指示されたホテルに行き、フロントの対応に不審を抱きつつも指定された部屋からトランクを持って出て行く。だがその室内には服部&松本コンビを含む東署の刑事達が張り込んでいた。実はトランクの中身は誘拐された社長令嬢の身代金だった。

 

そうとは知らぬ工藤は娘を車が停めてある駐車場まで送る。娘はトランクを受け取って工藤と別れて車を出し、途中で乗り捨てて別の車に乗り換える。近くに出て来た同型の車の運転席に居るのは関根で、娘が乗った車の運転席には高宮の姿があった。関根の車が追跡して来た警察を引きつける内に、高宮と娘は無事に逃走した。

一方の工藤はパトカーに包囲されて、東署へ連行される。取調室で松本に締め上げられている間、隣の部屋からマジックミラー越しに服部が被害者に面通しをさせるが、要領を得ない。

工藤は服部&松本コンビから話を聞いて、自分がハメられた事を察する。

東署を脱出した工藤は、改めて高宮の家に向かうが、その家の表札は「レナート・サルバトーレ」に変わっていた。警察を騙ってメイドとレナート本人に話を聞くと、娘がコールガールだと判明する。

その娘=マヤと高宮=野々宮は、渋谷の閉店したストリップ小屋に隠れていたが、そこに現れた関根と分け前の事で揉める。

工藤は以前にマヤに突っかかって来た女を探し出して、マヤと野々宮の潜伏先の情報を得る。

工藤がストリップ小屋に着いた時に、関根が野々宮を射殺し、マヤが身代金を入れたコインロッカーの鍵を奪って逃走した。追おうとする工藤の前に松本達が現れるが、機転を効かせて脱出、マヤ達の後を追う。

ロッカーから金を持ち出したマヤの前に工藤が現れる。後から来た関根に拳銃を突きつけられるが逆転し、関根を気絶させる。その間にマヤは拳銃を拾って逃走、追いかける工藤に発砲しながら逃げようとするが、弾切れになった所で工藤に捕まる。そこへ警察が到着し、マヤは連行された。

 

以上が今回のストーリーです。

今回は工藤が誘拐犯グループに騙されて身代金運搬の手伝いをしてしまう、かなりスリリングな話です。それでも笑いの要素は沢山あります。

今回、工藤の優しさと怒りは、工藤を利用したマヤに向けられます。

最初に家出娘だと信じていた時は強い口調で家に帰る様に説得し、クライマックスでは必死に金を持って逃げるマヤに厳しい視線を向けながら、「金が人生なんて寂しい生き方もうやめようじゃないか」と諭し、警察に連行される直前には、「脱獄したら俺ん所来い、面倒見てやるよ」と告げます。他人を犠牲にしてでも金を得たいというマヤの心根を許せない心情と、一度は惚れた女に対する憐憫がないまぜになった工藤の複雑な表情が、ハートボイルドをよく表していると言えるでしょう。

 

展開も早くて、一気にに観られる中盤の佳作です。では今日はこれにて失敬。