ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #5 「夜汽車で来たあいつ」

こんばんは、松田悠士郎です。

 

今回のテキストは、「探偵物語」第5話「夜汽車で来たあいつ」です。脚本は第1話「聖女が街にやって来た」でデビューした丸山昇一さん、監督は優作さんと映画「あばよダチ公」、「俺達に墓はない」でも組んだ澤田幸弘さんです。

 

コインランドリーで工藤が出会った男、田村一郎が東京に出て来て行方が判らない妹を探して欲しいと依頼して来た。

聞き込みによって恋人の五郎の事を突き止めた工藤だったが、その五郎は交通刑務所に服役中だった。五郎の部屋には同棲の痕跡が見られた。妹の実態を知って落ち込む田村を窘めつつ励ます工藤。その過程で、田村は謎の4人組に襲われて逃走する。

一方、工藤は五郎に面会し、妹の新たな勤め先の手掛かりを得るが、そこはコールガール斡旋組織と繋がっていた。工藤は組織の顧客名簿を撮影したフィルム(その場で飲み込んでしまう)を盾に社長と面会し、妹と会う事に成功する。だがその妹の由美は、兄に会う事を拒む。

田村は宿泊先を4人組に突き止められて再び逃走、五郎の部屋に隠れて工藤を呼ぶ。田村の元へ向かう工藤を4人組が追跡している事も知らずに、工藤は田村と再会する。そこで田村が5000万円もの大金を所持している事を知るが、4人組の襲撃を受けて逃走、公園で反撃して田村を逃がし、その後に4人組のひとりを捕まえて訊問する。4人組は建設会社の人間だと言い、田村が持っている金は大規模河川工事受注の為に町長と助役に渡した賄賂だと告げた。と同時に、田村が癌に冒されている事も明かす。工藤は問題解決を請け負って男を解放する。

田村を説得し、金を受け取った工藤は4人組と会うが、田村を許さないという4人組を廃屋に誘い込んで退治し、予め呼んでおいた服部&松本コンビに逮捕させる。

後日、田村と由美は束の間の再会を果たし、田村は郷里に帰って手術を受ける決意をした。

以上が今回のストーリーです。

 

この話の特色として、劇中にひとりも死者が出ない事が挙げられます(途中、情報屋のサブローの口から「ホステスがひとり殺された」という台詞が出ますが)。通常のハードボイルド作品であれば少なからず死者が出るものですが、そこは丸山昇一さんの手腕と言えるでしょう。「ハートボイルド」は死者が出なくても立派に成立するという好例です。

 

この話での工藤の優しさは、専ら田村に対して向けられます。妹の現状を知って、妹を責める田村に、「事実が真実語ってるとは限らないんだな」と窘め、妹に会わせろと田村に詰め寄られた時は、「一緒にモンシロチョウ追いかけてた頃の妹とは訳が違うんだよ!」と裏返しの怒りを滲ませる。

ラスト、再会を果たした兄妹を、陰から見守っただけで立ち去る所も、工藤の優しさがよく表れている所でしょう。

 

今回はアクションもコミカルで、4人組の匕首を砂場にあった玩具で受け止めたり、廃屋ではその構造を活かしたギミックを駆使して4人組を退治します。とかく剣呑になりがちな格闘シーンも、工藤にかかれば忽ち笑いが生まれます。

 

この話は、福井から単身で出て来た不器用な男に工藤が厳しくも優しく寄り添った、ハートウォーミング寄りな話と言えるでしょう。

 

今回も「松田優作DVDマガジンVol.02」収録の映像を視聴し、「甦れ! 探偵物語」を副読本としました。では今日はこれにて失敬。