ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #6 「失踪者の影」

こんばんは、松田悠士郎です。

 

今日のテキストは、「探偵物語」第6話「失踪者の影」です。脚本は柏原寛司さんと佐治乾さんの共同、監督は西村潔さんです。柏原寛司さんは、後に「あぶない刑事」や「ルパン三世」等の脚本を担当して人気を得ます。今回も「松田優作DVDマガジンVol.3」の映像を視聴し、「甦れ! 探偵物語」を副読本としています。

 

大月からやって来た木下礼子が、工藤に恋人の岡本幸男を探して欲しいと依頼して来る。工藤はその場は請け負って、礼子を大月へ帰すが、そのままほったらかしていると3日後、礼子から催促の電話がかかって来る。しかも礼子は探偵事務所の近くのキャバレーで働いていると言う。

仕方なく調査を始めた工藤は、岡本の宿泊するホテルを突き止めるが、岡本の代わりに服部&松本コンビに遭遇する。その事を礼子に訊くが、礼子に心当たりは無い。手掛かりを求めて工藤は大月へ行き、岡本の元の勤め先で話を聞くと、岡本は「金づるを掴んだ」と言って急に勤め先を辞めたらしい。そして、岡本の事を訊きに警察以外にスジ者が来たとも言う。

東京に戻った工藤が、岡本が行方をくらます前にあった事件を調べると、スナックのママの飛び降りに行き当たる。この事件の陰には整理屋グループが関与している事を知った工藤は、再び礼子に帰郷を勧めるが、礼子は頑として聞き入れない。その礼子の勤め先で整理屋グループのひとりと思われる男を見かけた工藤は、礼子を囮にして男から事情を聞こうとするが失敗する。その後に、礼子を部屋まで送った直後に松本に殴られて留置場にブチ込まれる。翌日、服部&松本コンビに連れられて工藤が行った先に礼子が居た。岡本の車が海から引き上げられている現場だった。前夜に銃撃戦があったらしい。岡本の生死は不明だが、礼子は生きていると強硬に主張する。直後、工藤は現場で整理屋グループを目撃する。

その後、岡本が整理屋グループに電話で金を要求する。整理屋は工藤をアジトに連れて行き、縛り上げた礼子を見せた上で工藤に岡本を連れて来る様に要求する。

工藤は飯塚から拳銃を手に入れて捜索を開始し、野村由美子というホステスに辿り着く。由美子の協力で岡本を捕まえた工藤は、整理屋との待ち合わせ場所に岡本と共に急行する。所が、いざ岡本が礼子と会うと、ただからかっただけだと主張する。そんな岡本を整理屋が銃撃する。工藤は岡本と礼子を逃がそうと自ら囮になるが、礼子が岡本を庇って撃たれてしまう。怒った工藤は整理屋達の脚を撃って痛めつけ、礼子の元に駆け寄るが礼子は岡本が無事な事を知って安心して息を引き取ってしまう。

後に、現場から逃げた岡本は警察に出頭して全てを話した。

 

今回は、依頼人が死ぬという、「探偵物語」の中でも数少ない哀しい結末を迎えます。

この話での工藤は、岡本の事を一途に思う礼子に対して様々な形で優しく接します。身を案じて何度も郷里に帰る様に勧めたり、礼子が死ぬ直前にも「新婚旅行でヨーロッパ行くんだろ!」と励まします。

一方で、工藤の怒りは今までに無くストレートに表現されます。

礼子を撃った整理屋達に対して憤怒の表情で銃弾を撃ち込み、手近な棒で執拗に殴打します。

礼子の事を関係無いと言う岡本に対しても、頭突きを2発かましたり、現場から車で逃げようとする所を捕まえて拳銃を突きつけたりします。ここまで怒る工藤は、この後の話でもあまり見られません。

それでも、工藤は整理屋達の命は取りません。後日、工藤の所に来た服部に「同士討ちって事にしといたから」と便宜を図ってもらい、礼を述べています。

 

恐らく、ハードボイルドなら相手を射殺している筈です。それをせず、不審に思われてでも脚を撃つだけに留める、ここが「探偵物語」を「ハートボイルド」たらしめている一端なのではないでしょうか。では、今日はこれにて失敬。