ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #21 「欲望の迷路」

こんにちは、松田悠士郎です。

 

今日のテキストは、「探偵物語」第21話「欲望の迷路」です。脚本は内田栄一さん、監督は村川透さんです。「松田優作DVDマガジンVol.10」収録の映像を視聴し、「甦れ! 探偵物語」を副読本としています。また、参考文献として、「松田優作と七人の作家たち」(李建志著)を参照しました。

 

事務所に現れたハナコという女性が、お兄ちゃんを返して等と訳の判らない話をするのでよくよく確認すると、どうやらハナコの兄は「工藤俊三郎事務所」に行ったらしい。そこで、いかにも詐欺臭い投資話に乗った様だ。場所を間違えた事に気づいたハナコは、慌てて事務所を出て行った。

一方、服部&松本コンビは、川で見つかった水死体を調べていた。身許は東ジンタロウと言い、財布には多くの名刺がしまわれていた。目撃者は見当たらなかった。

その様子を野次馬していた三郎が、ナンシーと共に食事中の工藤に話している所へ、ハナコがやって来る。ハナコの話では、工藤俊三郎から投資話を聞いた兄のミツオが、相棒の東にも150万円出させ、自分はハナコの貯金50万円を出して俊三郎の事務所へ行ったが、その後東が死体になって見つかったので心配になり、俊三郎の事務所へ行ったものの、俊三郎は不在で事務所に居た人は無関係を主張したらしい。ミツオが詐欺に引っ掛かったと睨んだ工藤は、ハナコを連れて俊三郎の事務所へ行ったが、やはり俊三郎はおらず、そこに居た共同経営者の千田秋彦から俊三郎を探してくれと頼まれる。千田によれば、俊三郎はミツオに騙されて権利書等を全て持って行ってしまい、それきり連絡が無いそうだ。

ハナコとミツオが居候していた親戚の家へ向かう途中、ハナコは工藤に自分達の身の上を話した。

ふたりは両親と共にブラジルに移住したが、5年前に両親が死亡、遺骨を日本に埋めたいと言う名目で来たらしい。だがハナコは土壇場で親戚の家に行く事を嫌がって逃げる。仕方なくひとりで親戚宅を訪れた工藤は、その親戚の叔母から散々兄妹の文句を言われる。東の事を訊くと、ヤクザだと答える。工藤はハナコと合流して東の事を尋ねるが、要領を得ないのでひとりで東が経営していた不動産屋へ行った。すると、東を「兄貴」と呼ぶ男が出て来て、これから東の死体を引き取りに警察へ行くと告げる。更にその男は、東を騙して150万円を持ち逃げしたミツオを許さないと息巻いた。

工藤は東が持っていた名刺を頼りに捜査している松本をからかってから再び俊三郎の事務所を訪れる。すると、中に居た千田がたった今俊三郎から電話がかかって来て、ミツオに監禁されていると言われたと告げる。工藤が監禁場所の心当たりを訊くと、千田は俊三郎の故郷である鳥羽ではないかと推測する。千田は工藤に正式に俊三郎探しを依頼しようとするが、工藤はやんわり断って、俊三郎の写真を要求するが、千田に写真は無いと言われる。

工藤はハナコを連れて鳥羽へ向かう。ミツオと俊三郎が泊まっていたホテルを見つけた工藤が聞き込んだ所によると、毎晩芸者を揚げてドンチャン騒ぎをしていたが、今日はフロントに財布を預けてふたりして出かけたらしい。だが財布の中身は現金ではなくアンコだった。

工藤は俊三郎の中学の同級生に会ったが、俊三郎の評判は良くなかった。

そのミツオと俊三郎は、移民船「ぶらじる丸」の船上で酒を飲んでいた。それから、場所を変えつつ俊三郎はミツオに酒を飲ませ、泥酔させる。

ミツオは、かつてハナコに身体を売らせて金を稼いでいた事から、日本で店を持ってそこでハナコを働かせたいと考えていた。

手掛かりを得られない工藤とハナコは一旦ホテルに戻るが、そこでミツオをけしかけたのはハナコではないのかと詰め寄る。しかしハナコは曖昧な態度を取る。

次にふたりは俊三郎の実家へ行くが、そこは既に廃屋になっていた。手掛かりを失ったふたりはホテルに戻るが、事態が進展しない事に苛立ったハナコがもうやめると言い出す。呆れた工藤が帰ろうとした所へ、千田から電話が入る。千田によれば、俊三郎から連絡があって、ミツオを別荘地へ連れ出したと言ったらしい。

ふたりは別荘地を探し出して向かう。すると、別荘建設予定の空き地にそれらしき男が居るのを見つける。一旦工藤がその場を離れた時、ハナコの横をトラックが猛スピードで通り過ぎた。運転していたのは千田だった。ハナコがそれを工藤に告げると、何かを察した工藤はハナコに、別荘地を探す時に利用した展望台に戻る様に指示して空き地に向かう。

俊三郎は、泥酔したミツオを車の後部座席に押し込み、エグゾーストにホースを繋いで車内にホースのもう一方をねじ込んで窓を目張りした。俊三郎は、ミツオを自殺に見せかけて殺そうとしていた。そこへ千田が拳銃を持って現れ、俊三郎をどやしつけた。実は東を殺害したのは千田で、計画通りに動かない俊三郎に業を煮やして鳥羽まで追って来たのだ。

千田が俊三郎に襲いかかった所へハナコと工藤が現れる。工藤が千田の拳銃を奪う間に、ハナコがミツオを救出する。だがそこへ、東の子分ふたりがジープで乗りつけ、ミツオを襲撃する。逆に襲いかかるミツオを子分が匕首で刺してしまう。怒った工藤が子分ふたりを叩きのめし、揉み合う千田と俊三郎から金を奪う。既にこと切れているミツオと、兄に寄り添って歌うハナコに、俊三郎から奪った金をくれてやり、工藤はその場を後にした。

目の前で兄を殺されて狂ってしまったハナコは、廃屋と化した俊三郎の実家で、妄想と共に暮らした。

 

以上が、今回のストーリーです。

捜索対象は殺され、依頼人は発狂してしまう、何とも救われない話です。

今回、工藤の優しさと怒りはどちらも、依頼人ハナコに向けられます。

最初は兄を探してと懇願して来たハナコが、次第に兄に持って行かれた自分の金への執着を見せると、厳しい口調でその態度を責めます。それでも必死にミツオを探し、最後にミツオが殺されてしまった時には、ミツオを騙して引きずり回した挙げ句に殺そうとした俊三郎から金を巻き上げて、既に狂ってしまったハナコに渡してやります。心温まる、と言う訳には行きませんが、工藤の思いがよく表れていました。

 

異色作と言える内容ですが、この作品が持つ雰囲気は失われていません。では、今日はこれにて失敬。