ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #3 「危険を買う男」

こんばんは、松田悠士郎です。

 

「ハートボイルド」を探究するこの企画、3回目の今回は「探偵物語」第3話「危険を買う男」をテキストとして使用します。

脚本は、このドラマのライター陣のリーダー格だった佐治乾さん、監督は西村潔さんです。尚、これはファンの間では有名な話だと思いますが、当初はこの話が第1話として放送される予定で、実際に最初に撮影されましたが、制作陣の判断によって「聖女が街にやって来た」が第1話になり、この話は3話にスライドしました。

 

ストーリーは、工藤探偵事務所を訪れた、身許を明かさない初老の男が、相木マサコ弁護士の3日間の素行調査を依頼して来る(帰り際に100万円の札束を3束渡しますが、どれも本物は上と下だけで中は白紙でした)所から始まります。

工藤はマサコの事務所に侵入して盗聴マイクを仕掛け、尾行も行ってマサコの行動を逐一記録します。その課程で、マサコがある放火事件を探っている事に気づきます。マサコは服部刑事や松本刑事と渡り合い、容疑者とされた女性を釈放させるほどの手腕を見せて工藤を感心させます。

その一方で、マサコが聞き込みをかけた、工藤の仲間のチーコが二人組の男に襲われて街から姿を消してしまいます。更にはマサコも殺されそうになりますが、工藤に助けられて事無きを得ます(但し、ここで工藤はマサコに痴漢と間違われます)。

翌日、工藤が依頼人に事のあらましを聞かせると、依頼人は態度を豹変させて「忘れてくれ」と懇願する。その後、工藤は男二人に襲われるが逆転して返り討ちにする。

マサコと接触した工藤は、マサコに手を引く様に言うが、マサコは逆に工藤に危険な提案をする。結局、マサコに協力する事になった工藤は、拳銃を持ってマサコと共に放火で焼けた倉庫の持ち主(=依頼人)の元へ行き、マイクを仕込んで接触して動かぬ証拠を掴もうとする。そこへヘリコプターの襲撃を受け、派手なカーチェイスを繰り広げる事になる。その一方で依頼人は殺されてしまう。

工藤の命がけの活躍とマサコの機転で事件は解決します。

 

この話は、ドラマの企画段階で言われていた「本格的ハードボイルド」を強く意識している様で、このドラマでは珍しいカーチェイスや銃撃戦(工藤曰く「おいおい、まるで「大都会パートⅢ」じゃねぇか」)が行われます。しかし、そこはそれ、ただのハードボイルドにならないのがこのドラマの特徴です。

大体、工藤が盗聴マイクのテストをする時に「女は太いのが好き」なんて言うし、第1話から登場しているレギュラーのかほりとナンシーに、「2度と会えないかも知れないから」と言ってキスしておいて「後で戻って来るから」と平気で言い残す始末。

クライマックスのカーチェイスで車が壊れてしまったマサコに「車買ってよ」とせがまれたら「買ってやるよ」と安請け合いしておいて、実際に買ったのはミニカーというふざけっぷり。

 

さて、この話でのポイントは、工藤の優しい気遣いです。

脅されて街から消えたチーコからもう一度証言を取れないかと言うマサコに、工藤は穏やかな口調ながらも強硬に拒否してチーコを守ります。

その前のシーンでは、依頼人に対して強い調子で「あなたが何処で何をしてようと僕には関係ありませんがね、でもあの女弁護士には手を出させませんよ」と言い放ち、知り合って間もないマサコの事を守ろうとします。自分の周囲の人間に危険が及ぶ事を良しとしない、工藤の優しさが垣間見えます。

その優しさが裏返ると、激しい怒りが現れます。

自分を襲って来た二人組の男の片割れがチーコを襲った男だと知ると、怒りを露わにして男に逆襲します。その際、男がどっちの腕でチーコを殴ったか確認して、わざわざその腕をへし折ります。仲間を傷つける奴は絶対に許さないという、工藤の義憤が明確に示されるシーンでした。

 

この話は、ハードボイルドな脚本にコミカルな味付けを施した、言わば「ハートボイルド」のプロトタイプと言えるでしょう。この話が初回でなく3話目に回る事によって、「探偵物語」の作品世界に幅を持たせる事ができたのではないでしょうか。

 

今回も、映像テキストとして「松田優作DVDマガジン Vol.2」収録の映像を視聴、副読本として「甦れ! 探偵物語」を参照しました。では今日はこれにて失敬。