ハートボイルドマスターへの道

小説で標榜している「ハートボイルド」という概念について深く探究する為のブログ。

「探偵物語」でハートボイルドを学ぶ #2 「サーフシティ・ブルース」

こんばんは、松田悠士郎です。

 

昨日から始まった「探偵物語」でハートボイルドを学ぶこの企画、2回目は第2話「サーフシティ・ブルース」です。

脚本を担当したのは当時「探偵物語」ライター陣最年少の那須眞知子さんです。那須さんは後に、映画「ビーバップ・ハイスクール」の脚本を担当します。監督は引き続き村川透さんです。

 

ストーリーは、癌で余命いくばくもない金融業者の後妻に、家出した娘の捜索を依頼された工藤が、その娘の男とその仲間が起こした強盗事件を追い、更には娘達の殺害現場に立ち会ってしまい、また工藤自身も命を狙われながらも事の真相に辿り着く、といった所です。

 

全体的にコミカルだった第1話とは対照的に、暗いトーンが多いシリアスな印象です。なのでハートボイルド感は薄めな気もしますが、風俗で働く娘に、死が近づいている父親の為にも家に帰る様に説得する工藤の姿に、底知れない優しさを感じさせます。

かと思えば、娘の男と仲間達に絡まれた時にトタン屋根の上で両腕を伸ばして「ウルトラマーン」とおどけたり、後半のホテルのプールサイドで何故か小さな女の子を連れて後妻の前に現れ、飲み物を訊かれて自分は牛乳、女の子にはビールと返す等、人を食った様な面も見せます。

また、工藤の優しさはラストにも見られます。全ての罪を被って逮捕された使用人に、ベスパ(工藤の愛車。冒頭と最後に盛大に煙を噴いています)を修理してもらった礼を述べています。

 

一方、工藤の義憤はクライマックスの、後妻が工藤の調査報告書を求めて事務所に侵入した際に見られます。

後妻は夫の遺産を独り占めする為に、邪魔な娘やその男を使用人を使って殺害します。工藤は後妻のその身勝手さを、抑えた口調ながらも強く糾弾します。

「そんな利己的な暴力よりも、ほんの少しの優しさが欲しいんだ」

「それはあんたの生理が、悪意の塊だからさ」

工藤は後妻と知り合ってから、若干好意を寄せていた節があり、その反動が強い怒りを生んだのかも知れません。最終的には、誘惑しようと近づいた後妻の手から拳銃を奪い取ってデスクの人形を撃ち、クールに追い払います。この時の工藤の表情には、やり切れない思いや悲しみが感じられます。

 

所で、「探偵物語」には沢山の個性的な仲間達が大勢登場しますが、この話で結構な数の仲間が登場します。

第1話で登場した情報屋のサブローに続き、玉転がしのダンディにいつも酔っ払っている故買屋の山崎、初代イレズミ者といった面々が初登場します。

それと、仲間ではないのですが工藤と深く関わる服部刑事と松本刑事も本格的に登場します。服部刑事は取調室で何故かトンカチで自分の脚を軽く叩いていて(以後の話でもたまにやっています)、松本刑事は工藤にかけた手錠をあっさり外されたりしています(工藤の手錠外しはこの後も頻発します)。

 

今回も工藤のアクションシーンはありますが、やはり命を奪う様な事はしませんし、金の話も最初の方のナレーションで「報酬はゴキゲンな額」と言っているにも関わらず受け取った形跡は無いし、後に後妻が差し出した謝礼も受け取りません。ここでも工藤の信条は一貫している様に見えます。

 

「陽」の第1話から一転、「陰」の第2話が提示されて、「探偵物語」の一筋縄で行かない世界観が確立されたと言っても良いでしょう。この振り幅も、「探偵物語」の魅力のひとつだと思います。

今回も、「松田優作DVDマガジン Vol.01」収録の映像を視聴し、「甦れ! 探偵物語」を副読本として使用しました。では今日はこれにて失敬。